先日(と言ってももう9月)に行われた、研修(福島県主催、森林環境学習指導者育成研修)に参加してきました。
内容は、只見のブナの森で「あがりこ」と「ギャップ更新」について観察するというものでした。
講師は只見町在住で、生態系などに詳しい、「只見の自然に学ぶ会」の新国勇さん。
まずは、只見のブナセンターで、新国さんの講義を聴いた後
ブナセンターを見学します。

カモシカもいたっ!
広くて、きれいで、展示物もよく、わかりやすく、とてもいい博物館です。
まだ行ったことのない方はぜひ、行ってみてください。
そして豪雪地帯である「蒲生地区」に移動して、「あがりこ」の観察をします。

「あがりこ」とは、薪や炭の材料として、雪上に出たブナ
(積雪のため根本よりずいぶん上の位置の枝や幹を伐った)の幹を伐採し、
それがやがて成長し、コブとなった部分のことです。

とても不思議な形です。

↑あがりこと新国氏。
そもそも「あがりこ」とは、「地上から上がったところから子が出ている」というのが名前の
由来と言われます。
豪雪地帯における人間と植物の関わり合いの中から生まれた独特の姿。
というか、人間が植物に恵みをもらっていることの証拠のようなオブジェというか・・・。
そしてこれはなんでしょう?

写真がちょっとわかりにくいですが、あがりこの近くにある
「カジコヤキ」の穴です。
「カジコヤキ」とは、炭を作るために、伐った木材を蒸し焼きするための穴で、
只見ではそう遠くない昔まで行われていたそうです。
薪炭というとコナラなどが一般的だと思いますが、
只見ではブナが多いためブナで多く行われていたらしいです。
そもそも、落葉樹林ではブナやミズナラが極相(植物遷移の、最終的な段階)であると言われますが
このあたりではブナが多いようです。
ブナは他の植物より光を得る力があり、光競争に強いとのことで、ブナ林の中で枯れ果てているナラの姿もありました。
蒲生地区での研修が終わり、宿泊所の
「
森の分校 ふざわ」に移動します。

ここは、只見町布沢地区の元分校後を宿泊所にしたところで
教室に黒板などが残されていて、なんとも懐かしいほっとするようなところでした。
翌日は宿泊所で新国氏の講義を聞いてから
布沢地区「癒しの森」に行きました。
新国氏の講義が、とにかく非常に面白かったです。
只見町は日本で第二位の巨大な森林生態系保護区域に含まれており、広大な森林がある。
そこではブナをはじめとする落葉広葉樹林のほか、針葉樹林、低木林、草地等など様々な植生が、原生的な状態で広大な面積に存在しており、現在「ユネスコエコパーク」に登録申請中です。(2013年12月現在)
只見町の森林生態系保護地区だけでいっても、
世界遺産に登録された白神山地の三倍以上も森林面積がありますが、
広いだけではなく、美しさからいっても白神山地に全くひけをとりません。
なぜ広大な自然が残ったか。
それは雪が深すぎて、開発や伐採の手が入りづらいという部分が大きかったから。
積雪量はく4~5mを超えるほど多く、年間の降水量は東京の2倍。
さらに、雪にもう一つの側面があります。
度重なる雪崩によって表土が剥ぎ取られ、岩盤がむき出しになった状態のことを
「雪食地形」と言います。

雪崩によって撹乱された地形に、それぞれに適応した植物群集が生育し、植生がモザイク状になる。
それをモザイク植生といい、様々な動植物が住むことができる環境のベースになります。
つまり、雪崩によって様々な地形ができ、
その地形それぞれに合った植物が生える。
そしてその様々な植物が、様々な動物にえさとすみかを与えます。
例えば只見に多いイヌワシは、食物連鎖の頂点に立つ鳥であり、
生物多様性の豊かさを表しています。
また、野生のヒメサユリの数も日本でトップクラスですが、
それも雪で自然が撹乱されたところに自生しやすいためです。
実は只見には絶滅危惧種の数も多いのです。
様々な動植物の恩恵を上記のあがりこに見られるように
利用してきた只見の人にとって森は「ガソリンスタンド」(薪炭利用)であり、「薬局」(薬草、体の諸症状に聞く植物など)であり、「スーパー」(食糧)であり「ホームセンター」(つるや草などで生活用具をつくる)でした。
森があれば生きていけた。
その自然の豊かさの根本に、「雪の多さ」がある。
・・・・というお話にびっくりしました!!
「雪によって土壌が攪乱されることが生物多様性の根底」
こういった認識はありませんでした。
「雪さえなければ、ここはいいところなのになあ~~。スキー場にだけ雪が降ればいい」
などととよく思ったりしているので・・・(笑
その部分がとても衝撃だったので、講義が終わったあと新国さんに
さらに聞いてみると
「雪がある方が文化も豊かだと思う。食文化も豊かで、料理もおいしいと思う」
とのことでした。
これからの季節、雪との戦いというような感覚になるのですが
やはりそれは、経済構造が昔と全く変ってしまい、
人と自然との付き合い方が変わり人が森の恩恵をより生活に深い部分で
感じづらくなったことでの自分の見方の変化なのだと思いました。
自給自足がベースだった時代、もちろん雪の大変さも感じていたでしょうが
今とは全く違う感じ方だったのだと思います。
さらに、「雪がなければ水もない」
と新国氏は言います。
「このあたりでは、水不足なんて聞いたことないでしょう?
雪があまり降らないところでは『ため池』が必要で、西日本や、郡山にもたくさんため池がある。
人為的に水をためておかないと、水がないんだ。
このあたりのように、沢から自然にたくさん湧き出る、なんてことはないんだから。
我々は雪、そして水の影響を無尽蔵に受けているからそんなこと考えることもほとんどないんだけどね」
確かに、その通りです。
水不足は経験したことがありません。
都市部においては、「おいしくて安全な水」を買わなければないのに
ここではおいしい水が、ほとんど当たり前ののように飲めるのです。
そんな根本的な部分にも雪が関わっているという、
考えてみれば当たり前のことを意識したことは
今まで全くありませんでした。
講義に深く感動した後、布沢地区の「癒しの森」へ移動しました。

比較的なだらかで、歩きやすい森です。
ここでは、「ギャップ更新」を観察します。
ギャップ更新とは、樹齢の高い木が枯死、または何らかの理由で倒木することによって
そこに光が差し込み、周辺の植物の成長が促されることです。
癒しの森を歩いて少したつと、早速見えてきました。

これは、樹齢300年くらいの巨大なブナが雪により倒れたときに、
近くの2.3本の木を巻き込んで倒れたところです。
なんと大きいんでしょう。
上空には大きな「ギャップ」が広がっていました。

樹齢300年の木が倒れたギャップが見れるのは、その場所にとっては
300年に一度のことで、珍しいことです。
大径木の存在感が圧巻でした。
出発してから最初は小雨でしたが、
途中からどんどん雨が強くなってきました。
新国氏は「ブナの森は雨の時が最高です。とにかくきれいなんです。
雨の時は誰が写真を撮ってもきれいになる」と言います。
確かに、ブナの樹皮が雨に濡れてつやつやしています。

「もっとザーザー降りだと、もっときれいなんだ」と新国氏。

その言葉に合わせたかのように、雨はどんどん強くなり、ブナもさらにつやつやに
なっていったのでした。
以上で2日間の研修が終わりました。
感想として、まずは「只見、すごい!」と思いました。
こんな近くに、こんなすごいところがあったとは。
いろいろな方に只見に遊びに行くことをおすすめしたいです。
そしてとにかく雪に対して、今まで知らなかった観点を知ることができたことが
すごくありがたかったです。
雪なんて大嫌いだったので・・・もう大嫌いなんて言えません。
もちろん生活していればまた嫌になるとは思うのですが
生命の根本的な部分を支えてくれているんだなーと思うと
今までとは全く違う気持ちです。
そして、この地域のことをもっと勉強したいと素直に改めて思いました。
まだまだ、自分が知らないこの地域の魅力、素晴らしさを知っていきたいです。